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労務管理・労働法

病院の労務管理|看護師の残業・休憩時間の違法リスクと離職防止の5つの改善策

病院の労務管理|看護師の残業・休憩時間と離職防止策

この記事の要点

  • 「30分未満の残業は申請できない」「残業申請は月20時間まで」「15分未満は切り捨て」といった運用は、労働基準法違反となるおそれがあります。
  • 労働時間の端数を1日ごとに切り捨てることはできません。端数処理が認められるのは、1か月単位の集計に限られます。
  • 休憩中でも、呼ばれれば直ちに業務へ戻らなければならず、労働から離れることが保障されていない時間は「手待時間」として労働時間と評価されます。
  • 休憩が取れなかった分の賃金を支払っても、それだけで休憩を与える義務(労働基準法34条)を果たしたことにはなりません。
  • 看護師不足が深刻化する今、「今いる看護師が安心して働き続けられる職場をつくること」も重要な人材確保策です。

病院の労務管理では、実際に働いた時間を適切に把握せず、その分の賃金を支払わない運用に注意が必要です。
また、休憩時間であっても、呼ばれれば直ちに業務へ戻らなければならず、労働から離れることが保障されていない時間は「労働時間」と評価される可能性があります。
厚生労働省も、使用者に対して労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、労働時間を適正に把握することを求めています。

看護師不足が深刻化する今、病院に求められているのは採用活動だけではありません。
「今いる看護師が安心して働き続けられる職場をつくること」も、重要な人材確保策です。

1年間に6万人を超える看護職員が退職しています

日本看護協会の「2025年 病院看護実態調査」は、全国の病院8,022施設(全数)を対象に実施され、有効回収数は3,502病院、有効回収率は43.7%でした。

同調査の報告書によれば、正規雇用看護職員の総退職者数を回答した3,440病院において、2024年度の総退職者数は60,709人でした。
このうち、2024年度の定年退職者数は3,449人(3,407病院の回答)です。定年退職を除いても、なお5万人を超える看護職員が1年間に職場を去っている計算になります。
なお、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%でした。

「看護師が足りない」
多くの医療機関がこの問題に直面しています。
採用に多額のコストと時間をかけ、ようやく入職してもらっても、数年、場合によっては1年も経たずに辞めてしまう。

そこで給与や採用条件の見直しに目が向きがちですが、離職対策は処遇改善だけではありません。
看護現場では、次のような問題が長年「病院では仕方がないこと」として扱われているケースがあります。

  • 働いた時間が正しく記録されない
  • 残業を申請しにくい
  • 休憩時間にも仕事から離れられない
  • 人手不足を理由に、不適切な勤怠管理が常態化している

しかし、労働関係法令の観点からみれば、「昔からそうしている」「みんなそうしている」ことは、適法性の根拠にはなりません。

病院の労務管理で注意したい4つのケース

ケース1|「30分未満の残業は申請できない」

例えば、勤務終了後に25分間、看護記録を入力したり、患者対応をしたりしているにもかかわらず、次のような運用になっていないでしょうか。

「30分残業したときだけ申請してください」

労働時間は、1日単位で切り捨てることはできません。
労働局が公表しているリーフレットでも、労働時間・割増賃金の端数処理について「日ごとに端数処理することはできません」と明示されています。実際に労働基準監督署には、「30分単位で残業時間を報告するよう指示される」といった相談が日々寄せられているとされています。

重要なのは「残業申請をしたかどうか」だけではありません。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示によって業務に従事している時間も含まれます。
したがって、「申請していないから残業ではない」と一律に処理することはできません。

ケース2|「残業申請は月20時間まで」

このケースでは、二つの話を分けて考える必要があります。

  • 「時間外労働を月20時間以内に減らそう」という業務改善上の目標を設定すること
  • 「実際には30時間働いていても、20時間までしか申請させない」という運用

この二つは、まったく異なります。
厚生労働省のガイドラインは、使用者が労働者の自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないとしています。

実際に労働している時間を申請させず、その分の賃金を支払わなければ、労働基準法24条の賃金全額払いの原則との関係で問題となります。法定時間外労働等に該当する場合には、37条の割増賃金の問題も生じます。

本来行うべきなのは、「残業申請を減らすこと」ではなく、「残業そのものを減らすこと」です。

ケース3|「残業は15分単位。14分ならゼロ」

勤怠管理システムで「15分未満切り捨て」と設定されている医療機関もあります。
労働局のリーフレットでも、労働基準監督署に寄せられる相談として「残業が15分単位で切り捨てられる」ことが挙げられており、日ごとの端数処理はできないと明示されています。

ただし、端数処理がすべて禁止されているわけではありません。
1か月における時間外労働、休日労働および深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる取扱いは、賃金不払いの法違反として取り扱わないこととされています(昭和63年3月14日付け基発150号)。

つまり、「毎日の労働時間を15分単位で切り捨てること」と、「1か月の集計時に認められている端数処理」は別物です。

ケース4|「休憩中でもナースコールに対応する」

病院では、休憩時間についても特有の問題があります。例えば、次のようなケースです。

  • 休憩室でもPHSを持っている
  • ナースコールが鳴れば対応する
  • 患者が急変すればすぐ病棟へ戻る
  • 他の看護師が忙しければ休憩を途中で切り上げる

労働基準法34条は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければならないと定めています。また、休憩時間は自由に利用させなければなりません。

さらに厚生労働省のガイドラインは、使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間を、いわゆる「手待時間」として、労働時間として扱わなければならないとしています。

したがって、PHSを持っているという事実だけで直ちに労働時間になるとは限りませんが、「呼ばれれば直ちに対応しなければならない」状態であれば、そもそも休憩として成立しているのかを確認する必要があります。

「休憩を取れなかったら残業代を払えばよい」ではありません

ここは病院の労務管理で特に重要なポイントです。
休憩時間中に実際に仕事をした場合、その時間を労働時間として把握し、必要な賃金を支払うことは当然必要です。
しかし、賃金を支払えば、それだけで休憩を与える義務を果たしたことになるわけではありません。

労働基準法34条は、一定時間以上働く労働者に対して、労働時間の途中に休憩を与えることそのものを使用者に求めています。
労働局のリーフレットでも、「休憩中に問い合わせの電話が入って30分対応し、1時間の休憩がとれなかった」という例について、「休憩は1時間取ったことにして計算する」という取扱いを明確に否定し、実労働時間の切り捨てはできず、休憩1時間が必要であるとしています。

したがって、休憩が中断された場合には、次のような運用を検討する必要があります。

  1. 中断した時間を労働時間として把握する
  2. 必要な賃金を支払う
  3. その日の労働時間の途中に、あらためて必要な休憩を確保する

「休憩は1時間と勤務表に書いてある」だけでは十分ではありません。
実際に1時間、仕事から離れることができているのか。そこまで確認することが労務管理です。

病院が取り組みたい5つの改善策

労務管理の改善は、就業規則を変更するだけでは終わりません。
医療現場では、「制度」と「現場の運用」を一致させることが特に重要です。

1.まず勤務実態を調査する

次のような項目を確認します。

  • タイムカードと残業申請時間に差がないか
  • 実際の休憩時間と勤務表上の休憩時間に差がないか
  • 休憩中の呼び出しは何回程度あるか
  • 休憩を取れない部署・時間帯はどこか
  • 人員配置に偏りがないか

客観的な勤怠記録と自己申告に著しい乖離がある場合、厚生労働省のガイドラインも実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすることを求めています。

2.休憩中のルールを明確にする

「休憩中でも何となく対応する」という運用をなくします。
休憩者を呼び出さなくても業務が回るよう、次のような仕組みづくりが必要です。

  • 休憩中の担当者を明確にする
  • 緊急時の代替対応者を決める
  • 必要に応じてフロートナース等の配置を検討する

3.労働時間を正しく記録する

申請があった時間だけを見るのではなく、実際の勤務実態と勤怠記録が一致しているかを管理者が確認します。
15分・30分単位での日々の切り捨てや、残業申請の事実上の上限がないかも点検してください。

4.「休憩を取れる人員配置」まで考える

休憩取得率を高めるよう職員へ呼びかけても、人員配置上どうしても休憩できないのであれば改善しません。
労務管理の問題を「職員本人の休み方の問題」にしないことが重要です。
部署別・時間帯別に業務量を確認し、休憩を確保できる勤務体制になっているかまで検討します。

5.管理者が率先して休憩する

制度以上に影響するのが職場文化です。

「先輩が休んでいないから休めない」
「師長が働いているのに、自分だけ1時間休めない」

このような職場では、就業規則に休憩時間が書かれていても機能しません。
管理職やベテラン職員自身が適切に休憩を取得し、「休憩を取ることは当然である」という職場文化をつくることも、労務管理の一部です。

病院の労務管理チェックリスト

次の項目に一つでも該当する場合は、一度、勤務実態を確認することをおすすめします。

  • ☐ 30分未満の残業は申請させていない
  • ☐ 15分単位で毎日の労働時間を切り捨てている
  • ☐ 残業申請に月間の上限がある
  • ☐ タイムカードと残業申請時間に大きな差がある
  • ☐ 休憩中もナースコールや電話に対応している
  • ☐ PHSを持ったまま休憩している
  • ☐ 休憩を取れなくても自動的に1時間控除している
  • ☐ 休憩を取れなかった時間を記録する仕組みがない
  • ☐ 「人手不足だから仕方がない」が常態化している
  • ☐ 管理職自身がほとんど休憩を取っていない

よくある質問

Q.本人が自主的に残って看護記録を書いていた場合も残業ですか?

一律には判断できません。
労働時間に該当するかどうかは「残業申請をしたか」ではなく、使用者の明示・黙示の指示があり、使用者の指揮命令下で業務を行っていたと評価できるかによって判断されます。

Q.残業の事前申請制は禁止されていますか?

事前申請制そのものが直ちに違法となるわけではありません。
ただし、事前申請がないという理由だけで、使用者が把握している実際の労働時間を「なかったこと」にすることはできません。客観的記録との乖離があれば、勤務実態を確認する必要があります。

Q.看護師の残業時間を15分単位で計算してもよいですか?

1日ごとの実労働時間について、15分未満を一律に切り捨て、その分の賃金を支払わない取扱いはできません。
端数処理が認められるのは、1か月単位で集計した時間外労働・休日労働・深夜労働の各々の合計時間に1時間未満の端数が生じた場合に限られます。

Q.休憩中にナースコールに対応した時間は休憩ですか?

呼ばれれば直ちに対応することを求められ、労働から離れることが保障されていない状態であれば、労働時間として評価される可能性があります。

Q.休憩を取れなかった分を残業として計上すれば問題ありませんか?

労働した時間として正しく計上し、賃金を支払う必要がありますが、それだけで休憩を与える義務がなくなるわけではありません。
法定の休憩が必要な勤務であれば、労働時間の途中に実際の休憩時間を確保できる勤務体制を整えることも必要です。

まとめ|看護師の離職防止は「当たり前の労務管理」から

看護師不足の時代には、採用活動の強化も必要です。
しかし、採用しても辞めてしまう職場のままでは、人手不足の根本的な解決にはなりません。

  • 働いた時間が正しく記録される
  • 働いた分の賃金が適切に支払われる
  • 休憩時間には、本当に仕事から離れて休むことができる

こうした一見当たり前の労務管理こそが、職員と病院との信頼関係を支える土台です。

人材確保が難しい医療現場だからこそ、「新しい看護師をどう採用するか」だけではなく、「今いる看護師がここで働き続けたいと思える職場になっているか」という視点から、労務管理を見直してみてはいかがでしょうか。

病院・クリニックの労務管理は当事務所へ

ウェルネス社労士・産業保健事務所では、社会保険労務士としての労務管理と、保健師・看護師としての医療・産業保健の視点を組み合わせ、病院・クリニックの職場環境改善を支援しています。

勤怠管理、労働時間・休憩時間の運用、就業規則、メンタルヘルス、休職・復職、管理職教育など、制度だけではなく「実際に現場で運用できる仕組み」まで一緒に考えます。

  • 現在の勤怠管理に問題がないか確認したい
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サービス内容は労務管理・就業規則のページ産業保健・健康経営のページもあわせてご覧ください。
看護管理職向けの労務管理については、日総研【月刊ナースマネジャー】での連載も執筆しています。


参考・出典

※いずれも2026年8月11日確認。

この記事を書いた人

大友 貴子|社会保険労務士・保健師・看護師・助産師
ウェルネス社労士・産業保健事務所 代表

大学卒業後、看護師・保健師・助産師として約25年間、医療・健康分野の現場で経験を積み、社会保険労務士として開業。医療現場を知る社労士・保健師として、労務管理と職場の健康管理の両面から支援しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の事案については、勤務実態、労働契約、就業規則、36協定等を確認したうえで判断する必要がありますので、専門家にご相談ください。