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労務管理・労働法

病院の有給休暇|看護師の年休を「人手不足」で拒否できる?時季変更権と実務対応

病院の有給休暇|看護師の年次有給休暇と時季変更権

目次

この記事の要点

  • 年次有給休暇は、要件を満たせば法律上当然に発生します。病院が「与えるかどうか」を判断する制度ではありません。
  • 時季変更権は「別の時季に取得してもらう」ための権限です。拒否権ではなく、「月1日まで」と一律に制限する根拠にもなりません。
  • 勤務割で回している職場では、通常の配慮をすれば代替勤務者を配置できたのに配慮しなかった場合、時季変更権の行使は認められないとされています。
  • 年休の利用目的は労働者の自由です。病欠を本人に無断で年休として処理することも避けてください。
  • 未消化分の買い取りは原則できません。年10日以上付与される職員には、年5日を取得させる義務があります(管理監督者を含む)。

「休ませてあげたい。でも、休まれると病棟が回らない」
看護管理職の方と話していると、ほぼ必ずこの言葉が出てきます。一方で、看護職の方からはこういう声を聞きます。

「申請したら、その月は忙しいからダメと却下された」
「4月から6月は新人教育の時期だから認めない、と言われている」
「有休は1か月に1日まで、というルールがある」
「けがで1週間休んだら、請求していないのに7日分の有休を使われていた」

どちらも本音です。ただ、労働基準法からみたとき、上に挙げた運用のいくつかは「グレー」ではなく、はっきり問題があります。
この記事では、病院でよく見かける年次有給休暇の運用を、条文と厚生労働省の資料に沿って整理します。前回は看護師の残業・休憩時間を取り上げました。今回はその続きにあたります。

年休は、病院が「与えるかどうか」を決める制度ではありません

年次有給休暇は労働基準法39条に定められています。雇入れの日から6か月間継続して勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した職員には、10日の年次有給休暇を与えなければなりません。その後は勤続年数に応じて増えていきます。

  • 6か月:10日
  • 1年6か月:11日
  • 2年6か月:12日
  • 3年6か月:14日
  • 4年6か月:16日
  • 5年6か月:18日
  • 6年6か月以上:20日

押さえておきたいのは、年休は「申請して、承認されて、はじめて発生するもの」ではないという点です。要件を満たした時点で、法律上当然に発生します。就業規則に「所属長の承認を得ること」と書かれていても、それは年休を許可制にする根拠にはなりません。

パート・非常勤の看護師にも年休はあります

「正職員ではないから有休はない」は、明確な誤りです。年休は、パート・アルバイトといった呼称に関わらず適用されます。所定労働時間が週30時間未満で、週の所定労働日数が4日以下(または1年間の所定労働日数が216日以下)の職員には、所定労働日数に応じた比例付与が行われます。
たとえば週3日勤務の看護補助者でも、6か月続けて8割以上出勤していれば5日の年休が発生します。

年5日は「取得させる」ことが病院の義務です

2019年4月から、年次有給休暇が10日以上付与される職員については、基準日から1年以内に5日を取得させることが使用者の義務です。時季指定をしただけでは足りず、実際に5日取得していなければ法違反として扱われます。

対象には管理監督者も含まれます。看護部長や師長が「自分は管理職だから」と年休を取らないままでいると、病院が義務を果たしていないことになります。現場では、ここが最も見落とされています。

職員が自ら請求・取得した日数と計画年休の日数は5日から差し引けますが、院内独自の病気休暇のような法定外の特別休暇は差し引けません。年5日を取得させなかった場合は30万円以下の罰金の対象です(労働基準法120条)。

「忙しいからダメ」と拒否できる? 時季変更権の限界

結論から言えば、「うちはいつも人手不足だから」は理由になりません。

労働基準法39条5項は、使用者は年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないと定めたうえで、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」としています。これが時季変更権です。押さえておきたい点が3つあります。

① 時季変更権は「拒否権」ではありません

条文が認めているのは「他の時季に与えること」で、年休を与えないことではありません。「その日は難しいので別の日にしてほしい」と伝え、実際に別の日に取得してもらう。そこまでがワンセットです。変更先を用意しないまま申請を却下すれば、年休を与えなかったのと変わりません。

② 判断は、その都度、具体的に行います

厚生労働省の解説では、時季変更が考えられる例として「年末等特に業務繁忙な時季を指定する場合」「同一時期に多数の労働者の年次有給休暇指定が競合した場合」が挙げられています。いずれも、その状況に即した個別の判断です。
逆に言えば、「4月から6月は新人教育の時期だから一律に認めない」「有休は月1日まで」といった運用は、個別の判断をしていない時点で成り立ちません。

③ 勤務割の職場は「代替勤務者を配置する配慮」が問われます

病院にとって、ここが最も重いところです。
厚生労働省「確かめよう労働条件」は、時季変更権が認められない例として、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるにもかかわらず、そのための配慮をせずに時季変更権を行使する場合を挙げています(弘前電報電話局事件・最高裁昭和62年7月10日判決)。

問われるのは「休まれると困るかどうか」ではなく、「休ませるための調整を実際にしたかどうか」です。「シフトが埋まらないから却下した」の前に、勤務割の変更を検討した記録が残っているか。ここが分かれ目になります。

「どこへ行くんですか」は聞いてよいのか

年休をどう使うかは労働者の自由です。使用者は、利用目的によって取得を拒むことはできません。「旅行だから認めない」という取扱いは成り立ちませんし、旅行先や交通機関の申告を求める運用も、それが取得の条件になっているなら見直しが必要です。

一方で、事情を一切聞いてはいけないわけではありません。申請が重なったときに「動かせる日かどうか」を相談することはあります。任意に相談することと、理由の申告を取得の条件にすることは別物です。申請書の「理由」欄が空欄だから受け付けない、という運用になっていないかを確認してください。

病気で休んだ職員を、勝手に有休扱いにしていませんか

「病気で休んだので、有休にしておきました」。これも病棟でよく聞く処理です。
年休は本人が時季を指定して取得するものですから、本人の意思を確認しないまま病院側が年休として処理する運用は避けてください。まず「年休を使う」「欠勤とする」「院内の病気休暇など他の制度を使う」という選択肢を示し、本人に選んでもらいます。

病気休暇を年休に振り替えるのは、改正の趣旨に反します

法定の年休とは別に設けている特別休暇を取得した日数は、年5日の取得義務にカウントできません。さらに厚生労働省は、法改正を契機に特別休暇を廃止して年次有給休暇に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないとしています。
「病気休暇をなくして有休で対応してもらえば、年5日もクリアできる」という発想は、向きが逆です。

傷病手当金という選択肢も伝えておく

業務外の病気やけがで働くことができず、給与が支払われない場合には、健康保険の傷病手当金を利用できることがあります。連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったことなどが要件で、支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。年休を使い切ってから調べるより、休みが長引きそうな段階で伝えるほうが現実的です。

「残った有休を買い取ってほしい」と言われたら

結論から言えば、年次有給休暇の買い取りは、原則としてできません。

年休は、職員に実際に休んでもらうための制度です。厚生労働省は、年次有給休暇の買い上げの予約をし、これに基づいて休暇の日数を減じたり、請求された日数を与えないことは法違反になる、としています。労働局のQ&Aも「もともとの年休の目的は、日ごろの業務からはなれて休むことですから、買い上げる代わりに休めなくなってしまっては、意味がありません」と説明しています。
つまり、「買い取るから休まなくていい」は成り立ちません。

例外として扱えるもの

  • 法定を上回る日数:労働基準法が定める日数を超えて病院が独自に付与している分については、この限りではないとされています。
  • 退職時に残ってしまった日数:退職して労働契約が終われば、年休を取得する余地はなくなります。この段階で残日数に応じた金銭を支払う取扱いをしている職場はあります。

ただし、退職時の精算は法律上の義務ではありません。労働基準法に買い取りを義務づける規定はなく、支払うかどうかは就業規則や個別の取り決めによります。
なお、年次有給休暇の請求権は、行使できるときから2年で時効により消滅します(労働基準法115条)。前年度分の繰越しがあるのはこのためです。

退職前にまとめて請求されてから慌てない

「来月で辞めます。残っている有休は全部使います」。看護師の退職時に、これが引継ぎと重なって問題になります。
年休は職員の権利ですから、退職間際の申請だからという理由で拒むことはできません。時季変更権も使えません。変更する先の労働日が、退職日より後には存在しないからです。

労働局は、実務上、退職前の業務の引継ぎなどで必要がある場合には、退職日を遅らせてもらうなど、退職する職員と話し合ったほうがよいとしています。話し合う余地を残せるかどうかは、残日数を日頃から把握できているかで決まります。

「休まれるとシフトが回らない」を個人の問題にしない

夜勤があり、人員配置が診療報酬とも結びついていて、専門性が高い。看護の現場は、一般の企業より代替要員の確保が難しい。これは私自身、看護師・助産師として病棟にいたので、よく分かります。
ただ、「年休を取られると回らない」状態が何年も続いているなら、それは休む職員の問題ではなく、勤務体制の設計の問題です。

厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、令和6(2024)年1年間の年次有給休暇の労働者1人平均取得率は66.9%、平均取得日数は12.1日で、いずれも昭和59(1984)年以降で最も高い水準でした。産業別にみると「医療,福祉」は68.4%で、全体平均を上回っています。

この区分には福祉分野も含まれるため病院だけを取り出した数字ではありませんが、「医療だから取れなくて当然」とは言いにくい水準です。
看護職の働き先も、もう病院だけではありません。「きちんと休めるか」は、職場を選ぶときの条件になっています。

病院が取り組みたい4つの改善策

1.年休を取る前提で勤務表を組む

希望を締切ぎりぎりに集めるのではなく、長期の休みは数か月前に把握します。「誰がいつ休むか」が先に分かっていれば、勤務割の調整は現実的な作業になります。
計画的付与を使う場合は労使協定が必要で、職員が自分で請求できる分を最低5日残さなければなりません。

2.「代わりを探す」を職員任せにしない

「休むなら自分で代わりを見つけてきて」という運用が残っている病棟があります。本来は病院が行うべき勤務割の調整を、休む職員個人に負わせているものです。前述のとおり、代替勤務者を配置する配慮をしたかどうかは、時季変更権の適否そのものに関わります。

3.業務の棚卸しとタスクシフトを進める

「これは看護師でなければできない仕事か」を一つずつ見ていきます。看護補助者や事務職へ移せる業務を整理しないまま、人員配置に余力は生まれません。

4.年休管理簿と就業規則を整える

年次有給休暇管理簿は、職員ごとに時季・日数・基準日を記録し、年休を与えた期間中および当該期間の満了後3年間保存しなければなりません。労働者名簿や賃金台帳とあわせて調製することもできます。残日数が常に見えていれば、退職の申出があった時点ですぐ引継ぎの計画を立てられます。

使用者による時季指定を行うのであれば、対象となる労働者の範囲と方法を就業規則に記載する必要があります(労働基準法89条)。記載がない場合も30万円以下の罰金の対象です。
あわせて、年休を取得した職員に対して、賃金の減額、精皆勤手当の不支給、賞与の減額など、取得を抑制する不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働基準法附則136条)。

病院の年次有給休暇チェックリスト

就業規則が整っていても、病棟ごとの運用がずれていれば意味がありません。多くの場合、悪意があるわけではなく、前任の師長からそう引き継いだというだけです。次の項目に一つでも当てはまるなら、各部署の管理者と一緒に確認してみてください。

  • ☐ 「有休は月◯日まで」という取得日数の上限がある
  • ☐ 繁忙期や新人教育の時期は、一律に年休を受け付けない
  • ☐ 申請を却下するだけで、代わりの取得日を調整していない
  • ☐ 「休むなら自分で代わりを探して」と職員に言っている
  • ☐ 申請書に理由の記載がないと受け付けない
  • ☐ 病欠を本人に確認せず有休として処理している
  • ☐ 看護管理職・管理監督者の年5日が達成できていない
  • ☐ 年休取得日を精皆勤手当や賞与の算定で欠勤扱いにしている

よくある質問

Q.「有休は1か月に1日まで」と病院独自のルールを決めてもよいですか?

できません。
年休は労働者が請求する時季に与えるのが原則で、使用者ができるのは、事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季へ変更してもらうことだけです。時季変更権は個別の請求ごとに判断するものですから、あらかじめ取得日数の上限を設けることとは別の話になります。

Q.人手不足を理由に時季変更権を使えますか?

慢性的な人手不足それ自体を理由にすることはできません。
時季変更権は、その時季に与えることが事業の正常な運営を妨げると具体的・客観的に判断される場合に行使するものです。とくに勤務割による勤務体制をとる職場では、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるにもかかわらず、そのための配慮をしなかった場合、時季変更権の行使は認められないとされています。

Q.有休を申請した職員に理由を聞いてもよいですか?

年休の利用目的は労働者の自由であり、目的によって取得を拒むことはできません。
調整のために事情を任意に確認することと、理由の申告を取得の条件にすることは別です。旅行先や交通機関まで一律に申告させる運用は見直しが必要です。

Q.取得できなかった年休を買い取ることはできますか?

原則としてできません。
買い上げの予約をして請求できる日数を減らしたり、請求された日数を与えないことは法違反となります。ただし、法律が定める日数を上回って独自に付与している分については、この限りではないとされています。退職時に残った日数を精算するかどうかは法律上の義務ではなく、就業規則や個別の取り決めによります。

Q.退職直前に残りの年休をまとめて請求されました。引継ぎがあるので断れますか?

断ることはできません。
年休は労働者の権利であり、退職間際の申請だからという理由で拒むことはできません。変更先の労働日が退職日より後に存在しないため、時季変更権も行使できません。労働局は、引継ぎ等で必要がある場合には、退職日を遅らせてもらうなど本人と話し合うことをすすめています。

まとめ|「休めないから仕方ない」を、どこで止めるか

年次有給休暇の問題は、「休みたい職員」対「休ませられない管理職」という構図で語られがちです。しかし、実際に変えられるのは人の気持ちではなく、勤務体制と運用のほうです。看護管理職は、シフトを組む人であると同時に、労務管理を担う立場でもあります。

年休の運用を見直すことは、職員の定着にも、医療安全にもつながります。まずは上のチェックリストで、自院の運用を点検してみてください。

病院・クリニックの労務管理は当事務所へ

ウェルネス社労士・産業保健事務所では、社会保険労務士としての労務管理と、保健師・看護師としての視点を組み合わせ、病院・クリニックの職場環境改善を支援しています。年次有給休暇の運用、就業規則、休職・復職、管理職教育など、制度だけでなく「現場で運用できる仕組み」まで一緒に考えます。

年5日の取得義務が達成できていない、病棟ごとに年休の運用がばらばら。そうした医療機関の方は、お気軽にご相談ください。
サービス内容は労務管理・就業規則のページ産業保健・健康経営のページもご覧ください。看護管理職向けには日総研【月刊ナースマネジャー】での連載も執筆しています。


参考・出典

※いずれも2026年8月19日確認。

この記事を書いた人

大友 貴子|社会保険労務士・保健師・看護師・助産師
ウェルネス社労士・産業保健事務所 代表

大学卒業後、看護師・保健師・助産師として約25年間、医療・健康分野の現場で経験を積み、社会保険労務士として開業。医療現場を知る社労士・保健師として、労務管理と職場の健康管理の両面から支援しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の事案については、勤務実態、労働契約、就業規則、労使協定等を確認したうえで判断する必要がありますので、専門家にご相談ください。